ひろ〴〵とあれたる所の過ぎ來つる山々にもおとらず、おほきに恐しげなる深山木どものやうにて。
都の中とも見えぬ所のさまなり。ありもつかず、いみじう物騷しけれども、いつしかと思ひし事なれば、「物語もとめて見せよ見せよ」と母を責むれば、三條殿宮に、親族なる人の衞門命婦とて侍ひける、尋ねて文やりたれば、珍しがりて、よろこびて、「御前のをおろしたる〔御前にありし草紙を頂戴したり〕」とて、わざとめでたき草紙ども、硯の箱の葢(ふた)に入れておこせたり。嬉しくいみじくて、夜晝これを見るよりうち初(はじめ)、また
〳〵も見まほしきに、ありもつかぬ京(みやこ)のほとりに、誰かは物語もとめ見する人のあらむ。



