更級日記 - 2 門出したる所は

門出したる所は、めぐり〔垣根〕などもなくて、かりそめの茅屋の蔀などもなし。簾かけ幕など引きたり。南ははるかに野のかた見やらる。東西(ひがしにし)は海ちかくていとおもしろし。夕霧たち渡りて、いみじうをかしけれ〔面白し〕ば、朝寢(あさい)などもせず、かた見つゝ、こゝを立ちなむ事もあはれに悲しきに、おなじ月の十五日、雨かきくらし降るに、境を出でて、下野國いかたといふ所にとまりぬ。庵なども、浮きぬばかりに雨降りなどすれば、恐しくて寢も寢られず。野中に岡だちたる所に、たゞ木ぞ三つ立てる。その日は、雨にぬれたる物どもほし、國に立ちおくれたる人々待つとて、そこに日を暮しつ。

更級日記 - 3 十七日のつとめて立つ