十七日のつとめて立つ。昔下總(しもつふさ)國に、眞野の長(をさ)といふ人住みけり。引布を千むら萬むら織らせ、晒させけるが家の跡とて、ふかき川を舟にて渡る。むかしの門の柱のまだ殘りたるとて、おほきなる柱川の中に四つ立てり。人々歌よむを聞きて、心のうちに、
朽ちもせぬこの川柱のこらずばむかしのあとをいかで知らまし
その夜は黑戸濱(くろどのはま)〔上總國に在り〕といふ所にとまる。片つ方は廣やかなる所の、砂子はる〴〵と白きに、松原しげりて、月いみじうあかきに、風の音もいみじう心ぼそし。人々をかしがりて、歌よみなどするに、
まどろまじこよひならではいつか見むくろどの濱の秋の夜の月