更級日記 - 29 八月ばかりに太秦に籠るに

八月(はづき)ばかりに太秦〔廣隆寺〕に籠るに、一條より詣づる道に、男車(をとこぐるま)〔男の乘りし車〕二つばかり引き立てて物へ行くに、諸共にくべき人待つなるべし、過ぎて行くに、隨身だつものをおこせて、
花見にゆくときみを見るかな
といはせたれば、「斯る程のことは、いらへぬも便なし」などあれば、
千種なるこころならひに秋の野の
と許いはせていき過ぎぬ。七日さぶらふ程も、たゞ東路のみ思ひやられてよしなし。とかくして、離れてたひらかにあひ見せ給へと申せば、佛もあはれと聞き入れさせ給ひけむかし。冬になりて、日ぐらし雨ふりくらいたる夜、雲かへる風烈しううち吹きて、空晴れて、月いみじうあかうなりて、軒ちかき荻の、いみじく風にふかれて碎けまどふがいと哀にて、
秋をいかにおもひ出づらむ冬ふかみあらしにまどふ荻の枯葉も

更級日記 - 30 東より人きたる