東より人きたる。
神拜〔國中の神社に國守の參詣すること〕といふわざして、國の中ありきしに、水をかしく流れたる野のはる〴〵とあるに、森のあるをかしき所かな、みせて、と先(まづ)思ひ出でて、こゝは何處(いづこ)とかいふ、と問へば、こしのび〔子忍〕の森となむ申す、と答へたりしが、身によそへられて、いみじく悲しかりしかば、馬よりおりて、そこに二時なむながめられし。
とどめおきて我がごと物や思ひけむ見るに悲しきこしのびの森
となむ覺えし。
とあるを、見る心地いへば更なり。返事に、
こしのびを聞くにつけてもとどめおきし秩父の山のつらき東路



