富士川といふは、富士山より落ち來る水なり。その國の人の出でて語るやう、「一歳(ひととせ)ごろ物にまかりたりしに、いと暑かりしかば、この水のつら〔水面〕に休みつゝ見れば、川上のかたより黄なるもの流れ來て、物につきてとゞまりたるを見れば、反古(ほぐ)なり。とりあげて見れば、黄なる紙にして、濃くうるはしく書かれたり。あやしくて見れば、來年なるべき國どもを、除目〔任官の公事〕のごと皆かきて、この國來年あぐべき〔國守の滿期〕にも守なして、又〔塙本「文」〕そへて二人〔國守一人、後任者一人〕をなしたり。怪しあさましと思ひて、とり上げて干してをさめたりしを、かへる年の司召などは、今年この山に、そこばくの神々あつまりて爲い給ふなりけりと見給へし、めづらかなることに侍(さぶら)ふ」とかたる。



