更級日記 - 37 かう立ち出でぬとならば

かう立ち出でぬとならば、さても宮仕の方にもたち馴れ、世にまぎれたるも、ねぢけがましき覺もなき程は、おのづから人のやうにもおぼし、もてなさせ給ふ様(やう)にもあらまし。親だちもいと心得ず、ほどもなくこめすゑつ。さりとてその有樣の、忽にきらしき勢など、あンべい樣(やう)〔あるべき樣〕もなく、いとよしなかりけるすゞろ心にても、殊の外に違ひぬる有樣なりかし。
いく千たび水の田芹をつみしかど思ひしことのつゆもかなはぬ
と許ひとりごたれて止みぬ。

更級日記 - 38 その後は何となくまぎらはしきに