更級日記 - 19 物語のことを

物語のことを、晝は日ぐらし思ひつゞけ、夜(よ)も目のさめたるかぎりは、これをのみ心にかけたるに、夢に見るやう、この比、皇太后宮(くゎうたいこうぐう)〔三條院皇后研子〕の一品宮〔貞子、陽明門院〕の御料に、六角堂に遣水をなむつくる、といふ人あるを、そはいかに、と問へば、天照大神を念じませ、といふと見て、人にもかたらず、何ともおもはでやみぬる、いといふかひなし。春ごとに、この一品宮をながめやりつゝ、
咲くとまち散りぬとなげく春はただわがやどがほに花を見るかな
三月(やよひ)晦日(つごもり)がた、土忌(つちいみ)〔土を忌む日暦にあり〕に人のもとに渡りたるに、櫻のさかりに面白く今まで散らぬもあり。かへりて又の日、
あかざりし宿のさくらを春くれて散りがたにしもひとり見しかな
といひにやる。

更級日記 - 20 花の咲き散る折毎に