更級日記 - オンライン読書
更級日記 - 50 いもとなどひと所にて
いもとなどひと所にて朝夕見るに、かうあはれに悲しきことの後は、所々になりなどして、誰も見ゆることかたうあるに、いと闇い夜、六波羅にあンなる甥(をひ)の來(きた)るに、珍しうおぼえて、
月も出でで〔なき夫の事をいふ〕やみにくれたる姨捨に何とてこよひたづね來つらむ
とぞいはれにける。懇に語らふ人の、かうで後おとづれぬに、
今は世にあらじものとや思ふらむあはれ泣く泣く猶こそはふれ
十月ばかり、月のいみじうあかきを、泣く
〳
〵
眺めて、
ひまもなき涙にくもるこころにもあかしと見ゆる月のかげかな
更級日記 - 51 年月は過ぎかはり行けど