更級日記 - 39 冬になりて

冬になりて、月なく雪も降らずながら、星の光に空さすがに隈なく、さえ渡りたる夜のかぎり、殿の御方にさぶらふ人々と物語し明しつゝ、明くれば
わかれしつゝまかでしを、思ひ出でければ、
月もなく花も見ざりしふゆの夜のこころにしみて戀しきやなぞ
我もさ思ふことなるを、おなじ心なるもをかしうて、
さえし夜の氷はそでにまだとけで冬の夜ながら音をこそはなけ
御前に臥して聞けば、池の鳥どものよもすがら、聲々はぶきさわぐ音のするに、目もさめて、
わがごとぞ水のうきねに明しつつうは毛の霜をはらひ侘ぶなる
とひとりごちたるを、傍に臥し給へる人、聞きつけて、
まして思へ水のかりね〔假寢、雁〕の程だにもうはげの霜をはらひ侘びける
かたらふ人どち、局のへだてなる遣戸をあけ合せて、物語などし暮す日、又語らふ人の、「うへにものし給ふを、度々よびおろすに、せちに事あらば如何」とあるに、枯れたる薄のあるにつけて、
冬がれのしののをすすき袖たゆみまねきもよせじ風にまかせむ

更級日記 - 40 上達部殿上人などに